RCEP協定における自己申告制 徹底解説! 〜輸出編〜

このページではRCEP協定で採用されている「輸出者・生産者自己申告制度」について徹底解説を行っていきます。
最後までお付き合いください!

 

ご承知の通り、日本は数多くの国々と経済連携協定(EPA)を結んでいますが、その多くが「第三者証明制度」を採用しております。

 

「第三者証明制度」とは、輸出する産品が各協定の原産地規則を満たす原産性を有しているか日本商工会議所が判定し、特定原産地証明書を発給する方式です。

 

第三者である日本商工会議所が原産品の判定や発給している為、発給手数料や発給までのリードタイムが必要になります。

 

これに対し、輸出する産品が、各協定で定められた原産地規則を満たしているか確認し、輸出者や生産者自らがが原産品である旨の申告書を作成できる制度を「輸出者・生産者自己申告制度」と言います。
この制度を利用することで、発給手数料や発給までのリードタイムが削減できます!

 

輸出する貨物がRCEP協定で定められている原産地規則を満たしているか確認する方法や手順は、「自己申告制度」であろうが「第三者証明制度」であろうが、基本的同じです。

 

それでは見ていきましょう!

 

1.RCEP協定で利用できる原産地証明制度

下記図をご覧ください。
日本からRCEP加盟国への輸出の際、全ての加盟国の現地輸入通関で使用することができるのが日本商工会議所で発給(第三者制度)する特定原産地証明書です。

 

そして韓国、オーストラリア、ニュージーランドの3か国へは、この日本商工会議所で発給(第三者制度)する特定原産地証明書に加え、原産品であることを証明する書類を輸出者や生産者が自らが作成できる「輸出者・生産者自己申告制度」を採用しています。

 

すなわち、RCEP協定では、日本の輸出者が自ら原産地申告書を作成することができる「輸出者・生産者自己申告制度」を利用できる向け先は、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの3か国のみとなります。
中国向けは「輸出者自己申告制度」を利用することができないので、日本商工会議所が発給する第三者制度を利用することになります!

 

RCEP加盟国

第三者証明制度

(日本商工会議所)

輸出自己証明制度

(自社)

中国 ×
韓国
オーストラリア
ニュージーランド
ブルネイ ×
カンボジア ×
インドネシア ×
ラオス ×
マレーシア ×
ミャンマー ×
フィリピン ×
シンガポール ×
タイ ×
ベトナム ×

 

RCEP協定において輸出者・生産者申告制度を利用できる向け先は以下の3か国のみです!

@オーストラリア

Aニュージーランド
B韓国

 

2.まずは第三者制度の利用をお勧め!

自己証明制度では自らで原産品であることを証明しなければならないので、初めて、特定原産地証明書を利用する企業は、まずは日本商工会議所が発給する第一種特定原産地証明書(第三者証明制度)の利用をお勧めします。

 

第三者である日本商工会議所が、原産地規則を満たしているか確認し、不備があれば補正を求めるためです。(第三者が確認をしてくれるので、誤った原産品判定を防ぐことができる。)

 

きっちりを原産品であることを証明する書類を作成し、何度か日本商工会議所から特定原産地証明書の発給を積み上げてから、自己申告制度に移行されることをお勧め致します。

いきなり、原産品であることを証明する資料を作成・用意し(項目対比表や計算ワークシート等)、原産品申告書を自ら作成しても、もちろん大丈夫ですが、第三者(日本商工会議所)からチェックを受けてから、自己申告に切り替えた方が安心ではないでしょうか?

3.RCEP協定における輸出自己申告制度の利用方法

「自己申告制度」であろうが「第三者証明制度」であろうが、基本的に輸出する産品の原産性を確認する手順や方法は同じです。

 

「第三者証明制度」の場合は、特定原産地証明書発給システムの企業登録や、原産品判定、特定原産地し証明書発給申請をシステムを通して行わなければならないのですが、「自己申告制度」の場合は、そのような手続きが不要で、自社で原産性を判定して原産品申告書を作成することができます。

 

ここで注意が必要なのが、単に原産品申告書を作成するだけではダメです!
その貨物が日本の原産品であるということを証明する資料(裏図け資料)を作成した上で、原産品申告書を作成しなければなりません。(項目別対比表、計算ワークシート、総部品表、生産工程表等々)

 

後から当局から事後確認(検認)が入ることがあるので、産品の原産地規則を満たすことの裏図け資料の作成と保存を行いましょう!

<手順>
@輸出する産品のHSコード確認する

A産品を輸出する相手国との原産地規則を確認し、どの原産地基準を満たせばよいか確認する。

B税率差ルールおよび税率差特別ルール対象品目の確認 ※特定品目(税率差品目)かの確認
RCEPにおける税率差ルールとは何?

C輸出する産品が原産地基準を満たしているか確認し、裏付け資料を作成・入手する。
関税分類変更基準(CTC)での必要書類
付加価値基準(VA)での根拠資料の作り方

D自社で原産地申告書を作成する。

E関係書類一式の保存 ※RCEP協定の場合は3年間

RCEP協定は「CPTPP」や「アセアンEPA」のような経済連携協定とは異なり、大きな特徴の一つとして税率差というものがあり、税率差がある品目は特定品目と呼ばれ、追加的要件を満たさなければなりません。
詳しくはこちらの記事をご参照ください!

RCEPにおける税率差ルールとは何?

4.RCEP協定における輸出原産品申告書の作成方法 徹底解説!

RCEP協定においては、協定で定められた必要的記載事項が記載されていれば、原産品申告書の様式は任意で作成することができます。

 

ただし税関で必要的記載事項を網羅した様式を用意してくれていますので、このフォーマットを使うと漏れがなく作成することができます。

 

フォーマット

税関作成のRCEP原産地申告書

 

それはは細かく原産品申告書の内容を見ていきましょう!
RCEP協定における自己申告制 徹底解説! 〜輸出編〜
RCEP協定における自己申告制 徹底解説! 〜輸出編〜

 

 

記内容詳細
@必須の記載項目。申告書の作成者が管理する任意の番号を記載
A認定輸出者の場合は認定番号を記載 ※通常はブランク
B輸出者情報を記載

C・生産者情報を記載 輸出者と同じであれば”Same as above“を記載
 ・生産者の氏名又は名称及び住所が判明していない場合には“NOT AVAILABLE”と記載する。

D輸入者・荷受人の情報を記載
ENoを記載
F品名、インボイス番号、インボイス日付を記載
G産品のHSコード(6桁) ※HS2022版

H原産性の基準を記載
 WO:完全生産品
 PE: 原産材料のみから生産される産品
 CTC: 関税分類変更基準
 RVC: 付加価値基準(域内原産割合)
 CR: 加工工程基準(化学反応)
 ACU: 累積 ※救済規定
 DMI: 僅少の非原産材料 ※救済規定

※例えばCTCを使用し、一部救済規定であるDMIを使用した場合は、CTCとDMIの2つを記載する。

IRCEP原産国を記載する。
 →詳細は後述している「5.RCEP原産国の決定方法」をご参照ください。

JFOB価額については、原産性の基準として域内原産割合(RVC)が用いられている場合のみ記載する。
KRmarks
L連続する原産地証明の場合は、当初の原産地証明の参照番号、発給年月日、発給国、RCEP原産国、(該当する場合)認定輸出者の認定番号を記載する。 通常はブランクです。
M輸出国のJAPANを入力

N輸入国を記載
※RCEP協定では輸出者自己申告制度がりようできるのは、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの3か国のみ

O作成日を記載
P作成者を記載 ※会社名
Q作成者の署名
Rいずれかを選択

 

5.RCEP原産国の決定方法

RCEP協定では税率差を目的とした迂回輸出を防ぐためのルールを「税率差ルール」と言います。
そして、この「税率差ルール」を満たす国が「RCEP原産国」となります!
これだけでは何を言っているのか分からないですよね。。。

 

RCEP協定では、この「税率差ルール」というものがあるのが特徴となっています。
でもこのルールを理解するのは非常に難しくないですか?

 

でもご安心ください。皆様に理解して頂けるよう1つ1つ徹底解説していきます!

 

では見ていきましょう!

5-1税率差とは何か?

まずは税率差について解説していきます。

 

下記図をご覧ください。
例えば、A産品を韓国が輸入する際、日本からの輸入は15%の関税が掛かるのに対し、ベトナムからの輸入は関税がゼロと言うように、同じ産品であっても相手国に応じて税率差をつけている産品があります。
すなわち、RCEP協定では相手国に応じて、異なる税率(税率差)を設定している品目があると言うことです!

 

なぜこの税率差が問題になるかというと、日本でほとんど完成品に近い状態にした上で、ベトナムに輸出し、ベトナムで完成品に仕立て、ベトナムから韓国に輸出すれば関税がゼロで済みます。

 

これが意図的に低税率の締約国を経由して輸出する、いわゆる「迂回輸出」です!

 

この迂回輸出による不正な関税削減を防止するために作られたルールを「税率差ルール」と呼びます。
そして、この「税率差ルール」を満たす国が「RCEP原産国」となります!

 

全ての品目で税率差があるわけではありません。税率差のある特定の品目(税率差品目)は限られています。
もし特定の品目(税率差品目)に該当する場合は、たとえ関税分類変更基準や付加価値基準などの原産地基準を満たしていても、追加的要件を満たさなければならず、輸出国で付加価値が20%以上必要になります。

 

迂回輸出による不正な関税削減を防止する為、軽微な作業だけでは「RCEP原産国」とは認めないのです。

 

RCEP協定における自己申告制 徹底解説! 〜輸出編〜

 

では、細かく税率差ルールについて見ていきましょう!

 

5-2 税率差のある特定の品目(税率差品目)とは何か?

税率差品目について解説致します!
相手国に応じて、異なる税率(税率差)を設定している国はRCEP締結国の中で7か国あります。

 

前述している通り、日本から輸出者・生産者自己申告制度を利用できるのは、オーストラリア・ニュージーランド・韓国の3か国です。
その内、オーストラリアやニュージーランドは相手国に応じて、異なる税率(税率差)を設定しておりませんので、ここでは韓国で定められている税率差のある特定品目をご紹介いたします。

 

このリストに掲載されている特定の品目(税率差品目)に該当する場合、追加的要件である日本で付加価値が20%以上無いと、RCEP原産国が日本とはなりません。

 

詳しくは、次の「5-3 税率差ルールの確認フロー」で詳細を解説していきます!

 

韓国

B韓国 99品目

主な対象品目:自動車、自動車部品、機械類、農水産品等

 

相手国に応じて、異なる税率(税率差)を設定している国は7か国あります。
@日本
A中国
B韓国
Cタイ
Dベトナム
Eインドネシア
Fフィリピン

5-3 税率差ルールの確認フロー

輸出する産品が、税率差のある特定の品目(HSコード)に該当しない場合は、通常通り産品の原産地規則を満たしていれば、日本がRCEP原産国となりますが、輸出産品が税率差のある特定の品目(HSコード)に該当する場合は、追加的要件として、日本で付加価値が20%以上あることが求められます

 

下記フローをご覧ください。

 

RCEP協定における自己申告制 徹底解説! 〜輸出編〜

 

 

税率差のある特定品目の場合 ※左に行くパターンAの場合

@まずは輸出する産品が、原産地規則を満たしていることを確認します。
(ここでは関税分類変更基準などを満たしている産品と仮定します。)
 ↓
A次に輸出する産品が、税率差のある特定品目に当たるか確認します。
(HSコードで確認します。)
RCEP協定で輸出自己申告制度を利用できるのは、@韓国、Aオーストラリア、Bニュージーランドの3か国しかありません。
なおかつ相手国に応じて、異なる税率(税率差)を設定している国はこの3か国の中で韓国のみです。
韓国のみパターンAの方に行く可能性があります。
オーストラリアとニュージーランド向けは、すべてパターンBの方向に行きます。
 ↓
B特定品目に該当する場合は、日本において、追加的要件である20%以上の付加価値があるか確認します。
 ↓
C日本の付加価値が20%以上あれば、日本がRCEP原産国になります。
20%以上無ければ、当該原産品の生産に使用された原産材料のうち合計して最高価額のものを提供した締約国又は最高税率の締結国をRCEP原産国とすることができます。

 

税率差のある特定品目ではない場合 ※右に行くパターンBの場合

税率差のある品目はそれほど多くはありません。ほとんどがこのバターンBになるかと思います。
@まずは輸出する産品が、原産地規則を満たしていることを確認します。
(ここでは関税分類変更基準などを満たしている産品と仮定します。)
 ↓
A次に輸出する産品が、税率差のある特定品目に当たるか確認します。
特定品目に当たらなければ右のパターンBの方向に行きます。
 ↓
B@で確認したどの原産地規則を満たしているか確認します。
 今回は関税分類変更基準を満たしています。(CTC)
 ↓
C日本がRCEP原産国になります。

 

※通常は原産材料からなる産品(PE)を使用することは少ないと思いますが、軽微な工程を超える生産工程が日本で行われている場合は、日本がRCEP原産国になります。
逆に軽微な作業しか日本で行っていない場合は、日本がRCEP原産国となることはできません。

 

原産性が与えられない軽微な工程及び加工とは何?

 

5-4 最初から税率差ルールを確認しない方法もあります!

税率差品目に対するこれらのルール(付加価値20%以上の確認)を適用して、RCEP原産国を特定することは事業者にとって確認作業が増えてしまいます。

 

このため、税率差ルールを適用せずに、対象原産品において、下記のいずれかを選択して適用しRCEP協定税率の申請を行うことができます。
(税率は高くなりますが、確認作業は軽減されます。ただし、輸入者の確認を事前に取ることをお忘れなく!)

@輸出締約国がRCEP原産国とならない場合、最高価額の原産材料を提供し締約国をRCEP原産国とする。(ただし、原産材料の提供国を証明できる場合に限る)

 

A上記にかかわらず、輸入者は、原産材料を提供した締約国又は全ての締約国の中で最高税率の締結国をRCEP原産国とする。

 

確認作業が困難な場合や、面倒な場合は、最初から最高税率の締結国を「RCEP原産国」とすることができます!

 

税率差ルールを使用せず、上記@又はAのいずれかを適用する場合は、原産地証明書のRCEP原産国欄には、@の場合は国名の後ろに「*」、Aの場合は国名の後ろに「**」を付けます。

 

例えば、「CHINA*」、「KOREA**」というようにします!

 

 

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

 

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