日アセアン包括的経済連携協定(AJCEP) 原産地規則 徹底解説
日本から輸出される産品が、EPAに基づく原産資格を満たしていることを証明すると、相手国税関でEPA税率(通常の関税率よりも低い関税率)の適用を受けることができます。この「EPAに基づく原産資格を満たしていることを証明する」書類が「特定原産地証明書」です。
アセアン(ASEAN)諸国との協定では、「特定原産地証明書」は日本商工会議所が発行する「第三者証明制度」が採用されてり、関係書類書類と共に日本商工会議所に発給申請をすることで、特定原産地証明書を取得することができます。
この日本商工会議所が発給する特定原産地証明書を「第一種特定原産地証明書」と言います。
産品の原産性を確認し、必要な書類を作成し、「特定原産地証明書」を取得すれば、現在アセアン諸国で輸入時に支払っている輸入関税をゼロにできる可能性があります。
(特定原産地証明書は、出荷の度に必要になります。)
取引先や御社にとって、大きなコスト削減につながる可能性があります。
せっかく用意された制度ですので、利用できるのであればぜひ利用したいものです。
ただし、貨物の原産性を確認し、必要な書類を作成するには専門知識が必要になります。
それでは、「日ASEAN 包括的経済連携協定(AJCEP)」とはどのような内容になっているのか徹底解説していきます!
1. 日本がアセアン(ASEAN)と締結している協定の種類
日本がアセアン(ASEAN)と締結している経済連携協定(EPA)は「日アセアン包括的経済連携協定(AJCEP)」があります。(日本を含め11か国での包括的経済連携協定)
「日アセアン包括的経済連携協定(AJCEP)」は、日本を含む11か国での包括的経済連携協定ですが、その他にも、日本はアセアン諸国と個別の二国間EPA等を締結しています。
例えばタイとのEPAは、「日アセアンEPA」の他に、「日タイEPA」や「RCEP協定」を締結しています。
どの経済連携協定(EPA)を使用しても構いません。
自社の産品の関税率が一番有利な協定を使用してください!
@ インドネシア:(1)日アセアンEPA、(2)日インドネシアEPA、(3)RCEP協定
A カンボジア:(1)日アセアンEPA、(2)RCEP協定
B シンガポール:(1)日アセアンEPA、(2)日シンガポールEPA、(3)RCEP協定、(4)TPP11
C タイ:(1)日アセアンEPA、(2)日タイEPA、(3)RCEP協定
Dフィリピン:(1)日アセアンEPA、(2)日フィリピンEPA、(3)RCEP協定
Eブルネイ:(1)日アセアンEPA、(2)日ブルネイEPA、(3)RCEP協定、(4)TPP11
Fベトナム:(1)日アセアンEPA、(2)日ベトナムEPA、(3)RCEP協定、(4)TPP11
Gマレーシア:(1)日アセアンEPA、(2)日マレーシアEPA、(3)RCEP協定、(4)TPP11
Hミャンマー:(1)日アセアンEPA、(2)RCEP協定
Iラオス:(1)日アセアンEPA、(2)RCEP協定
このページでは「日アセアン包括的経済連携協定(EPA)」について徹底解説していきます!
2. 特定原産地証明書の種類/発給機関・発給媒体/HSバージョン
1)「日アセアンEPA」で使用される原産地証明書
・第一種特定原産地証明書(日本商工会議所が発給)
2)特定原産地証明書の発給機関
・日本商工会議所
・紙の特定原産地証明書を発給。
※ただし仕向地がマレーシア及びベトナムの場合のみ特定原産地証明書はPDFにて発給
3)「日アセアンEPA」で使用するHSバーション
・HS2017を使用
3. 日アセアンEPAにおける「原産地基準」について
まずは、日アセアンEPAでの原産地基準はどのような内容になっているのか解説していきます。
特定原産地証明書を取得するには御社の産品が、この原産地基準を満たしていなければなりません!
日アセアンEPAでの原産地基準は大きく3つあります。いずれかを満たせば原産品として認められます。
産品の関税分類(HSコード)ごとに原産地規則(品目別規則 PSR)が定められているので、産品のHSコードに対応した原産地規則をよく確認しましょう!
@完全生産品であるか?
A原産材料のみから生産される産品か?
B実質的変更基準を満たす産品であるか?(一般ルールと3つの品目別規則がある)
産品毎に定められた品目別規則(PSR)は、税関のHPに掲載の「原産地規則ポータル」で簡単に調べることができます。
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それでは、細かく見ていきましょう!
上記でご紹介した「原産地ポータル」で原産地規則を調べると、一般ルールが適用される場合は、「一般ルール」と記載があります。
一般ルールについては、「3.3 実質的変更基準を満たす産品とは?」で解説しています!
3.1 完全生産品(WO)とは?
完全生産品とは締約国において「完全に得られ、または生産される産品」と定義されます。
具体的には、農林水産品、鉱物資源といった一次産品のほか、廃棄物やくずなども含まれます。
日本の領域において完全に得られ、または生産される産品で、具体的には日本で生まれ、飼育された牛や、その牛から得られる牛乳などです。
また日本で採取される果物や野菜、魚なども日本の完全生産品です。
このような産品は、日本の原産品とすることができます。
一番イメージしやすいですね!
項 目 (例 示) |
---|
a. 生きている動物であって、日本において生まれ、かつ、成育されたもの(家畜、領海で採捕した魚等) |
b. 日本において狩猟、わなかけ、漁ろう、採集又は捕獲により得られる動物 (捕獲された野生生物) |
c. 日本において生きている動物から得られる産品 (卵、牛乳、羊毛等) |
d. 日本において収穫され、採取され、又は採集される植物及び植物性生産品 (果物、野菜、切花等) |
e. 日本において抽出され、又は得られる鉱物その他の天然の物質 (原油、石炭、岩塩等) |
f. 日本の船舶により、両締約国の領海外の海から得られる水産物その他の産品 (公海、排他的経済水域で捕獲した魚等) |
g. 日本の工船上において(f)に規定する産品から生産される産品 (工船上で製造した魚の干物等) |
h. 日本の領海外の海底又はその下から得られる産品 (大陸棚から採掘した原油等) |
i. 日本において収集される産品であって、日本において本来の目的を果たすことができず、回復又は修理が不可能であり、かつ、処分又は部品若しくは原材料の回収のみに適するもの (走行が不可能な廃自動車等) |
j. 日本における製造若しくは加工作業又は消費から生ずるくず及び廃品であって、処分又は原材料の回 収のみに適するもの (木くず、金属の削りくず等) |
k. 本来の目的を果たすことができず、かつ、回復又は修理が不可能な産品から、日本において回収される部品又は原材料 (走行が不可能な廃自動車から回収したタイヤであって、タイヤとしての使用が可能なもの等) |
l. 日本において(a)から(k)までに規定する産品のみから得られ、又は生産される産品 ((a)に該当する牛を屠殺して得られた牛肉等) |
3.2 原産材料のみから生産される産品(PE)とは?
これは文字通り、「日本の原産材料のみ」から生産される産品をいいます。
しかし一般的には「日本の原産材料のみから生産される産品」であることを証明するのは、非常に大変なため(証明資料がたくさん必要)、作業効率を考えると、次でご紹介する「関税分類変更基準」や「付加価値基準」を使用して、原産性を証明する方が簡単です。
下記図で説明すると、「原産品a」、「原産品b」、「原産品c」のそれぞれの原産地規則調べ、その原産地規則を満たしていることを証明する根拠書類を、それぞれ作成しなければならないため、作業工数がどうしても増えてしまいます。
また、日本以外の非原産材料を使用している場合は、この基準は使用できません。
3.3 実質的変更基準を満たす産品とは?
日アセアンEPAでは、実質的変更基準には大きく2つあり、「@一般ルール」と「A3つの品目別規則」があります。
輸出する産品のHSコードに品目別規則が定められていれば、「品目別規則」を使用し、品目別規則が定められていなければ「一般ルール」を使用することになります。
「一般ルール」は、冒頭の「日アセアンEPAで使用される記号」の表にあるように、HSコード4桁変更(CTH)か、付加価値基準(RVC)のいずれかを満たしていることが求められます。
一方、産品のHSコードに品目別規則が記載されていれば、品目別規則を使うことになります。
品目別規則は、産品の関税分類(HSコード)ごとに定められており、以下の3つの分類に分けられます。
(2)付加価値基準 (RVC)
(3)加工工程基準(SP)
これら基準の間には優先関係はなく、いずれかを一つを満たしてればよいというものであり、@〜Bの基準は同格です。
実質的変更基準(一般ルールや品目別規則)を、かみ砕いて説明すると、産品の生産に使用する「非原産材料」が、日本において加工や産品に生産に使用されることにより、実質的に他のモノに変化したと認められる場合は、当該非原産材料は日本の原産材料としてみなすというルールです。
それでは、(1)関税分類変更基準、(2)付加価値基準、(3)加工工程基準をそれぞれ細かく見ていきましょう!
一番よく使用するのは、関税分類基準です!
3.3.1 関税分類変更基準(CTC)についての解説
関税分類変更基準(CTC)とは、輸出産品と輸出産品の生産のために使用された非原産材料の間で、HSコードが変更されている場合、そこに実質的な変更があったとみなし、輸出産品を原産品であると認める基準です。
例えば大豆(HSコード:1201)を中国から日本に輸入し、その大豆を日本で味噌(HSコード:2103)に加工したとします。
中国産の大豆は、日本で加工することにより味噌に変化(HSコードが変更)されているので、大豆は日本で実質的な変更があったとみなします。
大豆は中国産のものであっても、関税分類変更基準を満たし、味噌は日本の原産品であることが認められるというものです。
これを、関税分類変更基準(HSコード変更基準)と呼びます。
更に関税分類変更基準は、何桁レベルのHSコードの変更が必要なのか、各産品毎に定められています。
CC (Change in Chapter)・・・HSコード2桁変更(類の変更)
CTH (Change in Tariff Heading)・・・HSコード4桁変更(項の変更)
CTHS (Change in Tariff Sub Heading)・・・HSコード6桁変更(号の変更)
例えば、産品の原産地規則が「CTH」だった場合、HSコード4桁変更が必要になります。
下記の図で説明すると、産品のHSコード4桁が「8302」なので、使用される非原産材料は「8302」以外のHSコードである必要があります。
実務的に効率が良い方法として、一旦全ての「構成部品・材料」を「非原産品」として扱い、関税分類変更基準を満たせば「原産品」と扱った方が効率がよいです!
3.3.2 付加価値基準(RVC)についての解説
付加価値基準(RVC)とは、日本で付加された価値が、ある一定の割合を満たしていることです。
日本での付加価値割合は、日アセアンEPAの場合、原則FOB金額に占める付加価値が40%以上あれば、日本で実質的な変更があったとみなし当該産品は日本の原産品と認められます。
付加価値とは、日本の原産材料や労務費、経費、利益、間接費等々の合計です。
閾値を超えなければ、「原産品」と証明しやすい部品・材料から、根拠資料を作成または入手(サプライヤー証明書など)します。
まじめに全ての「原産品」を証明する必要はありません。閾値を超えた時点でOKです!
・付加価値基準(VA)での根拠資料の作り方
・付加価値基準の計算方法徹底解説!(控除方式・積上げ方式・その他の方式)
3.3.3 加工工程基準(SP)についての解説
加工工程基準(SP)とは、非原産材料に特定の加工工程が施されることが要求される基準です。
化学反応、精製、異性体分離の各工程、若しくは生物工学的工程を経ることで実質的な変更があったものとみなし、原産性が与えられる基準です。
例えばA国からプロピレンを輸入し、日本にて化学反応(特定の加工工程)させグリセリンを製造した場合、グリセリンは加工工程基準を満たし、実質的な変更があったとみなし日本の原産品として認められます。
4. 実質的変更の例外@ 累積(AUC)とは?
原産品の確認を行う時に、関税分類変更基準や付加価値基準を満たさない場合でも、あきらめるのではなく、救済規定である「累積」という考え方があります。
日アセアンEPAの場合は、「モノの累積」ができます。
モノの累積とは相手締結国で作ったモノは、自国で作ったモノとみなす考え方です!
付加価値基準で使用するロールアップとは?
モノの累積の代表的な例として、付加価値基準を利用する際の「締約国間ロールアップ」があります!
ロールアップとは、相手締結国の原産品については、原産品全ての価格を、日本の原産材料としてカウントしてよいことを言います。
下記の図で説明すると、相手締結国の原産品Aには締結相手国以外の非原産材料も含まれていますが、締結相手国の原産品であるAの価格50ドルすべてを、日本の原産材料費としてカウントしてもよいという規定です。(締結間ロールアップ)
モノの累積 関税分類変更基準でも使えます!
締結国であるA国で、関税分類変更基準を満たしA国の原産品になったモノは、日本の産品で規定されている関税分類変更基準を満たすことができない場合でも、A国の原産品は日本の原産品としてみなされます!(モノの累積)
5. 実質的変更の例外A 僅少の非原産材料(DMI)とは?
関税分類変更基準を利用し原産性を証明する場合、HSコードが変化せずに基準を満たさないケースに使用できる救済規定です。
デミニマスルールとも言われます。
関税分類変更基準を満たさない非原産材料があったとしても、その使用がわずかな場合、日本の原産品として認める救済規定です。
産品に占める割合が以下に当てはまる場合、その使用がわずかとして日本の原産品として認められます。
6. 実質的変更の例外B 原産資格を与えることとならない作業とは?
日本で行われる工程や加工が軽微な場合、たとえ「関税分類変更基準」や「付加価値基準」などの規定を満たしていても、日本の原産性は与えられません。
日本でほどんど手を加えられていないと判断されます!
ただ単に箱詰めや、シールを張り付けるだけの作業では日本の原産性は与えられないのです!
a.輸送又は保管の間に産品を良好な状態に保存するための作業
b.改装及び仕分
c.組み立てられたものを分解する作業
d.瓶、ケース及び箱に詰めることその他の単純な包装作業
e.HS通則2(a)の規定により一の産品として分類される部品及び構成品の収集
f.物品を単にセットにする作業
g.これらの作業の組合せ
7. 積送基準(直接積送)とは?
せっかく日本の原産品を証明する特定原産地証明書を取得してもこの「積送基準」を満たしていなければ、原産品とみなされません!
積送基準を満たすためのには、下記の@、Aのいずれかを満たさなければなりません。
@日本から締結国に直接輸送されること
A積替え又は一時蔵置のために第三国を経由して輸送される場合、当該第三国において積卸し及び産品を良好な状態に保存するため必要なその他の作業以外の作業が行われていないこと。
一般的には「通し船荷証券の写し」があれば積送基準を満たします!
1)通し船荷証券の写し
2)第三国において積卸し及び産品を良好な状態に保存するために必要なその他の作業以外の作業が行われていないことを証明するもの
8.連続する原産地証明書(Back-to-Back CO)について
日アセアンEPAでは、他の協定には無い特徴的な制度として、連続する原産地証明書(Back-to-Back CO)を発給することができる旨が規定されています。
「連続する原産地証明書」という原産地証明書は、あまり聞きなれないですよね?
それでは最後に連続する原産地証明書(Back-to-Back CO)とは何か解説していきます!
上記の図を使ってご説明致します。
例えば、輸出先の会社がタイに大きな倉庫があり、一度タイに産品を輸入し、倉庫で保管しておいて、オーダーが入ったら、分割してアセアン各国に再輸出する場合などの時に、連続する原産地証明書が使用されます。
いわゆるストック販売する時などに多く利用されます。
原則は、日本から産品が直送されない場合、上記の例ですと日本→ベトナムに直送されない場合、産品Aは日アセアンEPAに基づく特恵税率の適用対象とはなりません。(積送基準のことです!)
ここでは経由国であるタイで、単なる船の積み替えでしたら問題ありませんが、輸入しているので、日アセアンEPAに基づく積送基準を満たしません。
そこで登場するのが、連続する原産地証明書(Back-to-Back CO)です!
タイにおいて当該貨物に対して@何ら加工がなされず、A日本の原産資格が何ら変更しない場合に、タイの原産地証明書の発給機関により、連続する原産地証明書(Back-to-Back CO)が発給されます。
そしてベトナムでは、タイで発給した原産地証明書(Back-to-Back CO)をもって、産品の原産国が日本であることが証明されます。
日アセアンEPAに基づき連続する原産地証明書(Back-to-Back CO)の具体的な運用や手続については、各アセアン経由国の原産地証明書発給機関に個別にご確認することをお勧めいたします。
現地の取引会社を通じて確認してもらうのが良いかと思います。
9. 関係書類の保存期間
関係書類を作成の日から原則として3年間保存する必要があります。
保存書類は特定原産地証明書のほか、原産品判定を行う際に用いた対比表、計算ワークシート、契約書、仕入書、価格表、総部品表又は製造工程表等々です。
以上、最後までお付き合い頂きありがとうございました!
・インド及びマレーシア向けのEPA原産地証明書の電子化
・特定原産地証明書申請代行サービス
・同意通知書の提出サービス
・サプライヤー証明書作成サービス
・安全保障貿易管理サービス
・原産地証明書で弊所が選ばれる理由!