農林水産物の経済連携協定(EPA)利用時の必要書類
日本は様々な国々と経済連携協定(EPA)を結び、農林水産物の輸出を促進しています。
この経済連携協定(EPA)とは、締約国間での様々な経済領域での連携強化・協力の促進などを含めた条約で、中でも関税の撤廃、削減など通商上の障壁の除去を促進していることが大きな特徴です。
今までは、高い関税が掛かっていたものが、この経済連携協定で関税が無くなったり、削減できるようになり、農林水産物を輸出する企業にとっては大きなビジネスチャンスです!
何もしないのであれば、今まで通り関税を支払うことになりますが、各締結国と結んだ協定の原産地規則を満たした産品であることを証明する「特定原産地証明書」を提出すると、関税がゼロになる可能性があります。
かなりの効果が期待されますので、早急に検討されることをお勧め致します。
ただし、特定原産地証明書を取得するには、各協定の原産地規則や、関税法の知識も必要になり、途中であきらめてしまうケースが非常に多いことも事実です。
どのような原産地ルールを満たしていなくてはならないのか、またどのような資料を用意しなければならないのか等、初めてトライされる方にとっては非常に分かりにくく、難しいと感じられると思われます。
ずばり!農林水産物の特定原産地証明書を取得する上でのポイントは、各協定の原産地規則を満たしていることを裏付ける資料(特定原産品であることを明らかにする資料)を用意できるかどうかです!
物品の輸出者も生産者も原産品判定を申請することができますが、日本商工会議所への原産品判定の申請は、「特定原産品であることを明らかにする資料」を提出して行わなければなりません。
発給機関である日本商工会議所は、提出された資料について審査を行います
それでは、特定原産品であることを明らかにする資料について見て行きましょう!
特定原産品であることを明らかにする資料
農林水産品については、「完全生産品」として、原産品判定の申請が行われることが多くありま
す。「完全生産品」とは、日本の領域において完全に得られ、または生産される産品です。
分かり易く言うと、日本で生まれ、飼育された牛や、その牛から得られる牛乳、牛肉などです。
また我が国で採取される果物や野菜、魚なども日本の完全生産品です。
「完全生産品」としての申請に当たっては、品目ごとに生産の過程や各協定の具体的要件などが異なるため、「特定原産品であることを明らかにする資料」を一律に示すことは困難ですが、原則として下記の資料が必要になります。
見て行きましょう!
農林産品の場合の必要書類
果物や、食肉などの場合、下記のような書類が必要になります。
加工しない場合と、加工する場合で必要書類が異なりますので注意下さい。
・農林産品に係る生産証明書 注1、注2、注4
・農林産品に係る生産証明書 注1、注2、注3
・農林産加工品に係る製造証明書 注1
注1:牛又は牛肉については、トレサビリティ制度に基づく個体識別番号から、完全生産品であることが明らかなときは、「牛肉に係る個体識別番号通知書」の提出に代えることができます。
注2:植物のように、日本国内において栽培され、かつ、収穫され、採取され、又は採集されることが要件とされている産品のうち、例えばリンゴや柿のように栽培地と収穫地が同一であるものについては、契約書、仕入書、伝票等から収穫地が確認され、協定上の完全生産品であることが明らかなときは、これらの写しの提出をもって生産証明書の提出に代えることができます。
一方、動物産品のように、日本国内において生まれ、かつ、成育された動物のみから得られることが要件とされている産品のうち、例えば鶏肉の原料の鶏は、ひなとして海外から輸入されるケースがあり得ることから、契約書、仕入書、伝票等から主たる飼養地が確認されるだけでは足りず、採卵から、生育、解体までの全生産過程が日本国内で行われたことについて、生産証明書等で明らかにする必要があります。
注3:加工業者が加工前の産品の生産も行っていて「農林産加工品に係る製造証明書」と「農林産品に係る生産証明書」の作成者が同一であるなど、「農林産加工品に係る製造証明書」の記載から、加工前の産品が日本の完全生産品であることが明らかなときは、「農林産品に係る生産証明書」の提出を省略することができます。
注意4:地理的表示(Geographical Indication=GI)保護制度の特性を活用した生産証明の簡素化ができます。
↓詳しくはこちらの記事をご参照ください。
https://hero-gensanchi.com/category7/gensanchnourin.html
水産品の場合の必要書類
魚などの場合、下記のような書類が必要になります。
加工しない場合と、加工する場合で必要書類が異なりますので注意下さい。
「特定原産品であることを明らかにする資料」の具体例(経産省資料より)
経産省の資料から、どのような資料が必要なのか具体例を見て行きましょう!
事例1-1)日ベトナムEPAを利用してリンゴを輸出する場合
原産品判定の申請者(リンゴの生産者ではない場合)が、生産者が作成した生産証明書から、日本国内において栽培、収穫等の全生産過程が行われたことを確認した結果、輸出しようとするリンゴが、日ベトナムEPA第24条(a)及び第25条(a)を満たしており、日ベトナムEPA上の原産品であるとき。
・ 農林産品に係る生産証明書
事例1-2)日ベトナムEPAを利用してリンゴを輸出する場合
原産品判定の申請者(リンゴの生産者ではない場合)が、食品表示法に基づく納品書の表示から、日本国内において栽培、収穫等の全生産過程が行われたことを確認した結果、輸出しようとするリンゴが、日ベトナムEPA第24条(a)及び第25条(a)を満たしており、日ベトナムEPA上の原産品であるとき。
・納品書
事例1-3)日ベトナムEPAを利用してリンゴを輸出する場合
原産品判定の申請者(リンゴの生産者ではない場合)が、地理的表示(GI)保護制度に基づく納品書の表示から、日本国内において栽培、収穫等の全生産過程が行われたことを確認した結果、輸出しようとするリンゴが、日ベトナムEPA第24条(a)及び第25条(a)を満たしており、日ベトナムEPA上の原産品であるとき。
・GI登録名称の記載された納品書
・地理的表示(GI)に基づく原産品としての説明書
※1「地理的表示(GI)保護制度を活用して原産品判定依頼を行うことができる産品一覧」に記載されているGI登録名称が明記されていることをいう。
事例2-1)日タイEPAを利用して鶏肉を輸出する場合
原産品判定の申請者(鶏肉の生産者である場合)自身が、採卵〜成育〜解体等の全生産過程を行っており、全生産過程が日本国内において行われたことを確認した結果、輸出しようとする鶏肉が、日タイEPA第28条1(a)、2(a)及び2(l)を満たしており、日タイEPA上の原産品であるとき。
・農林産品に係る生産証明書
※上記の場合、採卵、成育等の生産過程も日本国内で行われたことについて明らかにする必要がありますが、このことが「農林産加工品に係る製造証明書」から明らかなときは、「農林産品に係る生産証明書」の提出を省略することができます。
事例2-2)日タイEPAを利用して鶏肉を輸出する場合
原産品判定の申請者(鶏肉の生産者ではない場合)が、採卵を担った生産者が作成した生産証明書、成育を担った生産者が作成した生産証明書、解体を担った生産者が作成した加工証明書(「農林産加工品に係る製造証明書」)から、日本国内において採卵〜成育〜解体等の全生産過程が行われたことを確認した結果、輸出しようとする鶏肉が、日タイEPA第28条1(a)、2(a)及び2(l)を満たしており、日タイEPA上の原産品であるとき。
・農林産品に係る生産証明書(日本国内において採卵が行われたことを証明するもの)
・ 農林産品に係る生産証明書(日本国内において成育が行われたことを証明するもの)
・農林産加工品に係る製造証明書(日本国内において解体が行われたことを証明するもの)
事例3)日タイEPAを利用して牛肉を輸出する場合
原産品判定の申請者(牛肉の生産者ではない場合)が、牛肉のトレサビリティ制度に基づく個体識別番号から、日本国内において出生〜生育〜と畜等の全生産過程が行われたことを確認した結果、輸出しようとする牛肉が、日タイEPA第28条1(a)、2(a)及び2(l)を満たしており、日タイEPA上の原産品であるとき。
・個体識別番号通知書
事例4)日インドネシアEPAを利用して緑茶を輸出する場合
原産品判定の申請者(緑茶の生産者ではない場合)が、茶葉の生産証明書及び緑茶の加工証明書(「農林産加工品に係る製造証明書」)から、日本国内において栽培、収穫、加工等の全生産過程が行われたことを確認した結果、輸出しようとする緑茶が、日インドネシアEPA第29条1(a)、2(d)及び2(l)を満たしており、日インドネシアEPA上の原産品であるとき。
・農林産品に係る生産証明書
・農林産加工品に係る製造証明
事例5)日ベトナムEPAを利用して冷凍さばを輸出する場合
原産品判定の申請者(冷凍さばの生産者ではない場合)が、冷凍さばの漁獲・養殖証明書及び加工証明書(「水産品に係る加工証明書」)から、日本国(領海内)において行われる漁ろうにより得られ、日本国内で加工されたことを確認した結果、輸出しようとする冷凍さばが、日ベトナムEPA第24条(a)、第25条(d)及び(l)を満たしており、日ベトナムEPA上の原産品であるとき。
・漁獲・養殖証明書
・水産品に係る加工証明書